2020年5月8日金曜日

002 [第114回医師国家試験 A-26]  38歳女性、発熱・悪寒・腹部緊満

A-26 (難問)

38 歳の初妊婦(10産)­。発熱、悪寒および腹部緊満を主訴に来院した。妊娠30 週。妊娠経過は順調で胎児の発育も問題ないと言われていた。既往歴に特記すべきことはない。意識は清明。身長161 cm、体重60 kg。体温38.8 ℃。脈拍96/分、整。血圧120/74 mmHg。呼吸数20/分。胎児心拍数陣痛図で頻脈を認めるが基線細変動は中等度、一過性頻脈を認めるが一過性徐脈は認めなかった。尿所見:色調は黄色、比重1.010pH 6.0、蛋白(―)­、糖(―)­、ケトン体(―)­、潜血(―)、沈渣に赤血球01/HPF、白血球1019/HPF。血液所見:赤血球388万、Hb 12.0 g/dLHt 35 %、白血球13,100(桿状核好中球17 %、分葉核好中球61 %、好酸球2%、好塩基球0%、単球10 %、リンパ球10 %­、血小板25万。血液生化学所見:総ビリルビン1.0 mg/dLAST 32 U/LALT 24 U/L、尿素窒素12mg/dL、クレアチニン0.5 mg/dL、血糖98 mg/dLNa 136 mEq/LK 3.8mEq/LCl 100 mEq/L。尿培養と血液培養の検体を採取した後にセフトリアキソンの経静脈投与を開始した。翌日、血液培養が2セットとも陽性になったと連絡を受けた。連絡を受けた時点で体温38.5 ℃、腹部緊満は持続していた。血液培養ボトル内容の塗抹Gram 染色写真別冊No. 5­を別に示す。適切な抗菌薬治療の方針はどれか。

 

a アンピシリンに変更する。

b 感受性試験結果が出るまでセフトリアキソンを継続する。

c セフトリアキソンを中止して経過を観察する。

d メロペネムに変更する。

e レボフロキサシンに変更する。

 

<問題文の読み方>

38 歳の初妊婦(10産)­。発熱、悪寒および腹部緊満を主訴に来院した。妊娠30 。妊娠経過は順調で胎児の発育も問題ないと言われていた。既往歴に特記すべきことはない。意識は清明。身長161 cm、体重60 kg体温38.8 ℃。脈拍96/分、整。血圧120/74 mmHg。呼吸数20/分。胎児心拍数陣痛図で頻脈を認めるが基線細変動は中等度、一過性頻脈を認めるが一過性徐脈は認めなかった。尿所見:色調は黄色、比重1.010pH 6.0、蛋白(―)­、糖(―)­、ケトン体(―)­、潜血(―)、沈渣に赤血球01/HPF、白血球1019/HPF。血液所見:赤血球388万、Hb 12.0 g/dLHt 35 %白血球13,100桿状核好中球17 %、分葉核好中球61 %、好酸球2%、好塩基球0%、単球10 %、リンパ球10 %­、血小板25万。血液生化学所見:総ビリルビン1.0 mg/dLAST 32 U/LALT 24 U/L、尿素窒素12mg/dL、クレアチニン0.5 mg/dL、血糖98 mg/dLNa 136 mEq/LK 3.8mEq/LCl 100 mEq/L。尿培養と血液培養の検体を採取した後にセフトリアキソンの経静脈投与を開始した。翌日、血液培養が2セットとも陽性になったと連絡を受けた。連絡を受けた時点で体温38.5 ℃、腹部緊満は持続していた。血液培養ボトル内容の塗抹Gram 染色写真別冊No. 5­を別に示す。適切な抗菌薬治療の方針はどれか。

 

太字が必要な情報です。

年齢性別:         38 歳の初妊婦

主訴:               発熱、悪寒および腹部緊満

重要な既往歴:   妊娠30

直近の症状:      体温38.8

検査結果:         白血球13,100桿状核好中球17 %、分葉核好中球61 %

培養:               血液培養が2セットとも陽性。

設問:               適切な抗菌薬治療の方針はどれか。

の順に追っていきます。

 

<解説>

かなりの難問です。グラム染色の写真を理解しないと解けません。

   グラム染色の写真を判別できるか?

   グラム染色の結果に併せた抗生剤を正しく選択できるか?

さらに、③妊婦への抗生剤選択、も問われています。

 

写真は、グラム染色の結果が「グラム陽性球菌」であることを示しています。一見、細長いので桿菌のようにも見えますが、よく見るとつぶつぶの球菌が連なっているもの(=連鎖している)で、長さもまちまちです。グラム陽性球菌と言えばブドウ球菌(スタフィロコッカス属)ですが、写真の球菌は短い連鎖を示す腸球菌(エンテロコッカス属)か、比較的長い連鎖を示す連鎖球菌(ストレプトコッカス属)の様子です。グラム染色の情報をもとに判断すると、妊婦に使用可能で、グラム陽性球菌に最も有効性の高いものは(教科書的には)アンピシリン(ペニシリン系)です。

 

<リンク>

グラム染色の意義 https://naraamt.or.jp/Academic/Gakkai/2009/seminar/point.pdf

日本細菌学会ホームページ http://jsbac.org/youkoso/staphylococcus.html

グラム染色の図鑑 https://gram-stain.com/

 

妊婦の尿路感染で、血液中に細菌が検出された敗血症の状態です。尿路感染といえば大腸菌等のグラム陰性桿菌ですので、比較的安全性の高い第三世代セフェム系のセフトリアキソンを最初に使用したのは正しい抗生剤選択です。その後、血液中のグラム染色の結果から血液中に細菌を認めました。敗血症の状態ですので、経過観察してはいけません[cは×]。グラム陽性菌なので、第三世代セフェム系の薬剤から変更する必要があります[bは×]。妊婦にはレボフロキサシン等のニューキノロン系は禁忌です[eは×]。カルバペネム系のメロペネムは広域の抗菌スペクトラムを有する抗生剤で、グラム陰性桿菌にもグラム陽性球菌にも有効です。しかし妊婦に対しては使用経験が少なく、安全性が確立していないとされています[dは×△]。この設問はちょっと悩む部分です。よって妊婦にも安全に用いることが可能な、グラム陽性球菌に感受性を示すペニシリン系のアンピシリンを即座に用いる[a]が正解になります。

 

a アンピシリンに変更する。                                           

b 感受性試験結果が出るまでセフトリアキソンを継続する。  ×

c セフトリアキソンを中止して経過を観察する。                 ×

d メロペネムに変更する。                                               ×△

e レボフロキサシンに変更する。                                      ×

 

<リンク>

JAID/JSC 感染症治療ガイドライン 2015 

http://www.chemotherapy.or.jp/guideline/jaidjsc-kansenshochiryo_nyouro.pdf

妊産婦の抗菌薬使用の注意点

http://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/06501/065010004.pdf

 

この問いで気になるのは、本当に尿路感染なのか?という点です。女性の検尿所見で、白血球1019/HPF の所見が尿路感染としては弱すぎます。試験問題としては、尿中白血球 >100か、50~99/hpf 位の値を示して、敗血症が尿路感染由来らしいという手ごたえがほしいところです。なぜ基礎疾患のない妊婦にグラム陽性球菌の尿路感染が発症し、敗血症に至ったのか?何かしらの排尿障害の既往があるのではないか?など、本問題からは読み取れません。さらにCRPの値がない、尿培養のグラム染色の結果がない、など気になる点はいくつかあります。原因菌がグラム陽性球菌の代表である腸球菌と判断した場合にはバンコマイシンの使用が推奨されますので、血液培養の抗生剤感受性の結果の確認がまたれます(数日かかります)。かなりまれですがMRSAの可能性もあります。今後も類似問題が出題されると思いますので、しっかり学習しておいて下さい。

 

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